鴨宮歯科医院の副院長である金子悠先生に、患者さんのインプラント治療における誤った認識、ドクターの技術力について、インプラントの将来のことなど、質問に答えていただきましたので、是非参考にしてみてください。
私は2人兄弟の長女として神奈川県で生まれました。両親及び祖母が歯科医師で、職場で患者さんに感謝されている両親の姿に影響を受け、自分も歯科医師になりたいと歯学部を専攻しました。母方一族は歯科医師が多く、そのご縁もあって著名な先生方にもお世話になる機会もありました。先生方からは患者さんと1つのゴールを目指すために信頼関係を築くこと、そのためには見た目・かみ合わせ・お口だけではなく、患者さんの体含め全体を見ることの大切さを学びました。
研修後は歯周病認定医(日本歯周病学会)や博士号を取得し、義歯やインプラントなど多岐に渡る分野を勉強しながら総合的な治療計画を患者さんに提案できるよう日々研鑽しています。特にオーストリアのウィーン大学のSlavicek教授から学んだ「患者さんのドラマを聞く」という姿勢は私の診療スタイルの基盤となっています。現在はこれから医療人になる卵たちへの教育を行うため、診療の傍ら看護学校の講師も務めたり、医療人の仲間を増やすためにMMR(Medical Member Rescue)というスタディーグループを立ち上げ副会長に就任しています。
インプラント自体は非常に優れた治療法ですし、当院でも歯がなくて困っている患者さんへ施術したことで、とてもご満足いただいております。ただ、インプラント治療自体が広く普及してきたこともあり、「自分の歯がダメになってもどうせインプラントで治してもらえるから大丈夫」という意見を聞きますが、こちらには、はっきりNO!とお答えしたいです。
これだけ様々な治療法が発達した時代でも、いまだに天然歯に勝る人工材料は開発されていません。例えば健康な天然歯の噛める力が100%だとしたら、入れ歯で約30~40%、ブリッジで約60%、インプラントで約80%と言われています。また天然の歯がトラブルを起こして抜歯になった場所にインプラントを入れるわけですから、天然の歯よりも丁寧に手入れしないと長持ちしません。
抜歯する原因には歯周病や虫歯などのイメージが強いですが、そういった原因がなくともかみ合わせが強すぎて歯が割れてしまう場合もあります。もともと力がかかっているところにインプラントを入れてもすぐにダメになってしまう可能性がありますし、歯周病で抜歯になった場所は土台となる骨が溶けてしまっているのでインプラントが埋入できる環境としては厳しい状態です。
インプラントは手軽で安心というイメージには変わってきていますが、インプラント治療ができない場合や治療した後でトラブルになる可能性もあります。メリットだけではなく、きちんとインプラント治療のデメリットやリスクを説明するなど、バランスよく情報発信してほしいと感じます。
まず、あらゆるサイトに書かれたクチコミを安易に信じすぎないように気を付けて頂きたいです。現在飲食店と同じようにクリニックでもgoogleなどで気軽にクチコミが投稿できるようになっていますが、それを利用して悪意あるクチコミでクリニックの評判を下げたり、逆に業者を使って過度な宣伝をしたりクチコミを悪用する例が散見されます。
実際に当院でも、「有料で良いクチコミを増やしませんか?」という勧誘が来たことがあります。飲食店であれば、「クチコミを信じて行ったけど、このお店は美味しくなかったから次は行くのをやめよう」といった感じで終わりますが、歯の治療は不可逆的なものが多く、一度失敗したり納得いかない治療を受けたら基本的に元の状態に戻すことはできません。
まして、インプラントは自分の顎の骨に人工歯根を埋め込む侵襲性の高い治療になるわけですから、より信頼できる主治医のもとで治療を受けるべきです。顔の見えない誰が書いたかもわからないクチコミを信じて安易にインプラント治療を受けるべきではありません。その人はあなたにもしものことがあっても責任をとってくれないのですから。
インプラント治療自体は歯科医師国家資格があれば誰でも治療することができますので、他に特別な資格は必要ありません。インプラント治療しているクリニックであれば、先輩方に教えてもらいながら実践で学ぶ先生もいらっしゃると思います。
インプラントをしっかり学びたい先生は、大学のインプラント科に所属して勉強しながら経験を積んだり、著名な先生方に弟子入りして指導を受けながら成長していく先生もいらっしゃるでしょう。他にはメーカーから紹介をされたセミナーを受講して勉強しつつ、インプラント専門のフリーランスの先生に教えてもらいながら勉強するパターンなどもあります。国家資格以外は決められた条件がないゆえに、勉強や経験の種類が豊富な分野だと思います。
きちんと自身の実力がわかっている先生であれば、自身で判断せず自分1人では難しい症例であれば専門医の先生に紹介したり、逆にフリーランスの先生を呼んで一緒にオペをしてもらったり何かあった時のサポートを準備していると思います。
現在では、「サージカルガイド」といって患者さんのCT画像と模型画像などを重ね合わせ神経や血管を避けて骨が十分残っている場所にインプラントを埋入できるようシミュレーションするソフトなどを使用してより安全性を図ることができるシステムもあります。実際に当院では、必ずシミュレーションを行って患者さんに説明を行い同意していただいております。
インプラントを数多くこなす先生達であっても、必ず難しい症例にあたるものです。その時に自分1人の独断で判断せずに教えてもらえる先生や、何かあったときに専門病院や大学病院などの紹介先を持っていること、更に一緒に勉強する仲間達をもつ先生を選べたら安心してインプラント治療を受けることができると思います。
まず患者さんのことを知ろうとする姿勢をもつ先生を選ぶことが大事です。インプラント自体の情報は調べれば沢山でてきますが、患者さん自身の情報はご本人に直接聞かなければわかりません。ということは、患者さんにしっかりカウンセリングをして向き合う時間が必要ですし、インプラント治療が受けられる状態かどうか判断する場合は、患者さんの健康状態をトータルで把握するために医科の先生とも連携をとる必要があります。
さらにインプラントの治療にはCT画像や歯周病検査などの資料も必要になってきます。以上のことからクリニックを選ぶ際は、カウンセリングの時間をきちんととってくれる・自分の健康状態や飲んでいる薬などお口以外の体全体を把握してくれている・CT画像から自分の歯の状態を具体的に説明してくれる先生を選ぶ必要があります。これらの基本的なステップを省いてしまうクリニックは注意したほうがいいと思います。
比較的長い保証期間だと思います。個人差もありますが被せものの寿命は平均10年前後と言われていますし、さらに歯周病菌など細菌がいるお口の中で、自分の歯と同じようにしっかり嚙めるようにしなければならないという過酷な環境の中にいるわけですから、保証期間としては十分だと思います。それだけ体の中で長く働くものですから、クリニックの保証だけでなくメーカーの保証もチェックした上で提案してくれるクリニックを選ぶとより安心ですね。
最近では安価なインプラントもでていますが、日本でシェアトップ3に入るメーカーは高価である分どちらもサポートが充実しています。日本シェアトップのストローマン社は、患者さんご自身がオペで入れたインプラントが純正品であるかどうか、ロット番号を入力すれば検索できるシステムもあります。値段で一概に判断することはできませんが、安全を保障するためにはコストは必ずかかるものです。保証期間以外にも治療費なども妥当かどうかもご自身で判断されたほうがいいと思います。
基本的に学会の認定医制度は認定医から始まり専門医、指導医とレベルが上がっていきますが、その難易度は学会ごとにまちまちです。少し勉強して試験を受ければとれる簡単なものから、厳しい条件をクリアしないと取得できないものまでかなり幅広くあります。
現在国内には専門・認定分科会は約50種類ほどあり、主な学会ですと日本歯周病学会では認定を受ける場合は3年間、日本口腔インプラント学会や日本矯正歯科学会では5年間学会に在籍していないと受験申請資格がありません。更に在籍しているだけでは受験ができず、症例提出や試験、認定施設に所属しているか、きちんと講演会に参加して必要な単位数を確保しているかなど厳しい審査をクリアしてようやく認定医や専修医などの資格を取得できます。
更にこの上の専門医・指導医になるとより厳しい症例提出やケースプレゼンテーション試験など多岐に渡る条件をクリアしなければならず、また認定医や専門医などになった後でも資格更新のために定期的な講演会の参加や症例発表が継続して義務付けられているため、資格を持ち続けるということはその専門分野に対して学びの姿勢を継続的に求められるということになります。
当院では現在ストローマン社のインプラントを使用しています。ストローマン社ではこの数年間の間でも新しいシリーズがでたり、システムがアップデートしたり日々進化していると感じています。最近では口腔内スキャナーを使ったデジタル化なども各社かなり進化しています。実はインプラントは新しい治療ではなく、最初にインプラント治療が行われた日から既に約60年近く経過している歴史ある治療法です。
これだけの歴史があっても、インプラント治療は歩みを止めることなく日進月歩で常に進化しています。もちろんストローマン社のみならず他メーカーも数年間のうちにアップデートをしていますので、私自身も日々勉強し続ける必要があると実感しています。
基本的に入れ替えは行っておりません。私が所有しているメーカーは2つ目で過去に1度だけ入れ替えていますが、当面製品の入れ替えを行う予定はありません。インプラントはメーカーごとに基本の器具の構造は一緒ですが、同じ規格ではないので、メーカーを変えてしまうとインプラントキットなどの器材をそっくり買い替える必要があります。インプラントが得意な先生や、症例数が豊富で様々なケースで使いこなしたい先生は何種類も買い替えたりしますが、基本的には一度患者さんに埋入したインプラントはずっとサポートし続ける必要があるので、頻繁に入れ替えると器具の管理も煩雑になってしまうので、あまり頻繁に行うものではないと考えています。
インプラントは非常に将来性のある治療法だと思います。ヒトの寿命は延びていますが、ヒトの歯の生え変わりのタイミングは乳歯から永久歯に変わる1回のみです。永久歯に生え変わったらその後はずっと同じ歯を死ぬまで使い続けなければいけません。永久歯を失ったら次の歯はもう生えてこないのです。自分の歯を1本も失うことなく寿命を全うできる方は少ないと思います。
年をとるにつれ体が動かなくなって同年代との会話も減り、食事だけが楽しみだというお年寄りのお話もよく聞きます。食事ができる喜びを歯がないところに天然の歯に近い感覚で与えてくれるインプラントは素晴らしい治療法だと考えています。 それだけではなく、噛むことによって筋肉が活性化したり、認知機能が回復する例もよく耳にします。
平均寿命が延びたからと言って、「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)」が延びたわけではありません。いつまでも元気でいるためにはしっかり噛んで美味しく食事が出来て、思いっきりストレスなく笑うための美しい歯が大切だと思います。インプラントはそのサポートをしてくれる将来性のある治療だと思います。
ご自身が信頼できるかかりつけの先生を見つけることがとても重要だと思います。「インプラントができればそれでいい」ではなく、インプラント治療を受けるためには元々の歯を失ってしまった原因があるはずです。そこを解決しないとインプラント治療自体は成功してもまたすぐインプラントがダメになってしまったり、今度は他の歯に痛みや抜歯などのトラブルが起こる可能性があります。
絶対安全な治療法は存在しないですし、基本的にインプラントは侵襲性も高く何度もやり直せる治療ではありません。インプラントが入れられない場合に代わりに義歯やブリッジなどの治療も上手にできるのか?自分ができないなら紹介先を用意してくれる先生か?といった点も、医師を選ぶ大切なポイントだと思います。
さらにインプラントは入れたら終わりの治療ではなく、「入れた後どれだけいい状態でトラブルなく使い続けられるか」が大事です。そのためにまずはインプラント治療の後も長くお付き合いできる信頼できるかかりつけの先生を探すことから始めましょう。なんでも相談できる心強い主治医がいると、治療の不安はとても軽くなります。この記事を読んだ皆様が、信頼できる先生方とお会いできることを願っています。
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