かわさと歯科・矯正歯科の院長である川里邦夫先生にインプラント治療についてお伺いしました。日本と海外の学会による違いから、治療を断られる可能性があるケースの例や抜けた歯をそのままにしていた場合の治療のこと、歯の予防についてなど色々な質問に答えていただきました。インプラント治療を検討されている方は参考にしてみてください。
私が歯科医師を目指すようになったのは、中学1年生の時です。当時は歯科医師が少なく、学校の歯科検診で虫歯が見つかって歯医者さんに行くと、待合室が患者さんでいっぱいでした。午前中に受付を済ませても治療が始まるのは午後からということも多く、子どもながらにとても不便さを感じていました。ですので、将来の進路を決めるときになって、自分が歯科医師になって問題を解決しようという思いが芽生えました。
徳島大学歯学部を卒業したあとは、初めて勤務したクリニックの歯科医師から紹介を受けてある勉強会に入ったのですが、そのグループはとても勉強熱心で、彼らと一緒に海外でいろいろと勉強してきました。その勉強会ができた当時のメンバーは20名くらいでしたが、私が入った時には100名くらいになっていて、今では2,000名を超えています。勉強会では海外研修をよく実施するので、その機会を利用して今でも積極的に参加し、海外のいろいろな歯科医師と出会って勉強させていただいています。
2002年にロスアンジェルスで開催された勉強会では、世界的にも有名なインプラントロジストのサーシャ・ジョバノビッチ氏と出会いました。インプラントは以前からあったのですが、インプラントの特徴などをデータ化して、学術的にいろいろと広めたのはサーシャ・ジョバノビッチ氏が初めてだったのではないでしょうか。彼から直接学んだことは、現在のインプラント診療でとても役立っています。
インプラントに関しては、知識や技術の差はあまりありません。ただ、歯科治療に対する考え方には差があるようです。
例えば、歯周病でもアメリカ系とスウェーデン系とがあって、国によって治療に対する考え方が大きく違います。アメリカは治療が中心なので、歯周病になったら病院に行き、悪いところをどうやって治しましょうという話になります。さらに、中途半端な治療をして症状が悪化すると訴えられてしまうので、悪い歯は積極的に抜くという傾向もあります。
一方のスウェーデンは予防が中心なので、歯周病にならないようにどうやって予防しましょうという話になります。海外研修ではどちらの方法についても学び、治療では双方のいいところを取り入れています。その上で、私は予防に力を入れたほうが患者さまのためになると思っているので、スウェーデン型予防歯科に力を入れています。
どのクリニックにおいても断られるのは、コントロールされていない糖尿病(HbA1c7以上)やインプラントを異物として認識するような自己免疫疾患などの疾患を持たれている方です。また、当然のことながら歯磨きの疎かな方も断られると思います。
逆に、骨がないからとか、歯周病の治療を行っていないからといった理由であれば、骨造成のできるクリニックや歯周病治療を行っているクリニックを探せば対応してもらえると思います。
インプラントは可能ですが、伸びてしまった歯の処置は必要になります。これは、インプラントの埋入は行えても被せ物のスペースがないからです。神経を取って被せるのか、伸びた歯の周りの骨を削るのか、矯正で圧下させるのかなど、ケースバイケースになります。
そのため、ただ単にインプラントを入れるのではなく、矯正の必要性や歯周病治療の必要性、噛み合わせの診査など、総合的に口の中全体の審査・診断が必要になります。そして、それをもとに治療計画を立案し、治療を開始することが大切です。
1度インプラントを埋入された方は、2本目以降もインプラント治療を選ばれる方が多いです。インプラントのメリットや術後の違和感なりを経験されているため、インプラントに対する抵抗が少なく、むしろ好まれて選ばれる方が多いように思います。
ただ、高齢になった場合は、インプラントをされていても入れ歯を選ばれる方もおられます。今後のメインテナンスといった理由から、それも良いのではないでしょうか。その場合は、インプラントに入れ歯のとめ金をかけることはタブーのため、入れ歯の設計が困難になる点に注意しなければなりません。
歯が全くない場合、インプラントは上顎で8本以上、下顎で6本以上と言われています。そのため、オールオン4では本数が足りないことになります。4本のうち1本でも失ってしまった場合には対処法がなく、また4本でのオールオン4はかなり無理があるため(特に上顎)お勧めはしません。エビデンスに従って、上顎で8本以上、下顎で6本以上の埋入本数があれば、1本でも失っても4本以上残るため、対応が可能です。 ただし、オールオン4はあまりにも中途半端な方法だと考えます。上顎はオールオン8、下顎はオールオン6が妥当と考えます。
1990年代の初期の頃はストローマンからスタートし、2000年頃からノーベルバイオケアを使用していましたが、現在はカムログを主に使用しています。 現在のインプラントの質はどれもかなり向上しており、形態や表面性状がかなり似通っています。
その結果、これらのどのインプラントを使用しても予後にあまり違いは出ません。また、当医院のCTはシロナ社製で、画像診断ソフト会社のドイツSi-cat社と連携しており、CT撮影後すぐにカムログガイドというサージカルガイドの発注がネット上でできることもあります。
定期的に歯科検診を受けて、歯石を取ったり歯のクリーニングをしたりしてください。これは、虫歯や歯周病の治療をしなくてもいいようにするスウェーデン型の予防歯科です。特に変わったことをしているわけではありませんが、虫歯や歯周病の予防に大きな効果が期待できます。
ご存知かもしれませんが、スウェーデンは国家が中心になって予防に取り組んでいます。社会保険制度も予防中心の仕組みになっていて、虫歯予防には社会保険が適用されますが、虫歯治療では社会保険が使えないケースがあります。そのため、どのご家庭でも小さい頃から虫歯や歯周病の予防に力を入れています。日本とは社会保険制度が違いますが、日本の患者さまもなるべく自分の歯を残したいという考え方が強いので、スウェーデン型の予防歯科が合っていると思い、当院では積極的に取り組んでいます。
私は「スタンダードなケースをハイクオリティに仕上げる」ことをモットーにしていて、これからも実直に貫いていきたいと思っています。例えば、海外研修や勉強会などに参加していると、新しい治療法や先進の技術に出合います。学んでみるととても素晴らしくて、実際の診療に活用できるのであれば可能な範囲で取り入れています。
ただし、難易度が高い治療法を積極的に取り入れようとは思っていません。難易度が高い治療法は注目される傾向にありますが、確立されて間もない技術は相応のリスクが潜んでいる可能性がありますし、歯科医師の自己満足で終わってしまう可能性もあります。私はそういう考え方はしたくないので、地味かもしれませんが難しいことに積極的に挑戦するのではなく、誰でもできる治療法を誰にも負けないくらいに完璧に仕上げられるようにしています。そして、患者さま自身もこのような考え方を持つ医院で診てもらうのが良いと思います。
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